だいたいそんな感じ

アラサー独身女性が思ったことを書くブログ

私をくいとめて

※「勝手にふるえてろ」「私をくいとめて」のネタバレがあります。

 

 

 

 

 

 

ちょうど1年前、綿矢りさの「勝手にふるえてろ」を読んだ。

当時、ずっと引きずっていた元彼の幻影と、全く魅力を感じられなかったにも関わらず、すごく押されてとりあえず付き合ってみた男性の間でゆらゆらしていた私にとって、その本は暗闇に差した一筋の光のようだった。

イチとニの間で震えるヨシカが自分に重なった。

ラストでヨシカが踏み出した一歩が、自分の踏み出すべき一歩だと思った。

いつまで幻影に惑わされているんだ。現実と向き合いなさい。神様にそう言われているような気がして、私は元彼のLINEやTwitterを全てブロックし、好きだと言ってくれた男性と向き合うことにしたのだった。

結局その男性とはお別れすることになったが、自分に好意を抱いてくれる存在にきちんと真剣に向き合ったあの期間は自分にとって決して無駄ではない時間だったと思う。

その男性のどこを良いと感じて、どこが良くないと感じるのか、それは何が原因なのか、何を改善したら気にならなくなるのか。何度も相手に質問をぶつけて相手の背景を知ろうとしたし、服装や話し方や気になる点はすべて変えるよう依頼した。ロマンチックな意味合いではなく、条件を整えるためにカバンや靴をプレゼントした。もはや恋愛というよりも社会実験のように私たちはトライアンドエラーを重ね、たどり着いた結論は「相手の身なりをどれだけ変えても、根本的なところが合わない人はうまくいかない」という身も蓋もないものだった。

恋愛感情ではなく知的好奇心に動かされていたが、それはそれで面白い日々だった。

相手にはすごく申し訳ないことをしたと思うが、元々好きでないというところからスタートしていることは相手も承知していて、好きになれる可能性があるのなら、と快く実験に参加してくれた。別れることになっても「付き合う前よりいい男になれたから」と悲しく笑いながら言ってくれた。なんでも言うことを聞いてくれる優しい人で、結婚したらきっと私に苦労をさせないであろう人で、私はそんな人を最後までなんとも思えなかった。

 

その男性との付き合いが半年。

残りの半年は、「どんなに好意を持ってくれている人でも、好きと思えないなら付き合わない方が自分は幸せに過ごせる。そして自分は簡単に人を好きになれない。よって、一人で過ごすのが今は一番ハッピー」という思いの元、一人楽しく日々をエンジョイしてきた。

そんな私が昨夜、同じく綿矢りさの「私をくいとめて」を読んだ。

読みました。

なぜ。

綿谷りさの小説はこうも読むたび登場人物に感情移入してしまうのか。

自分の気持ちがゆらゆらしているときには、勝手にふるえてろのヨシカもゆらゆらしていて。

一人が楽しくて、それでいいのだって思っている今、私をくいとめてのみつ子はおひとりさまを満喫している。

たまにご飯を作ってあげる関係の男性が、お互い恋愛に発展するほどの情熱もないと気づいたときのみつ子は、

 

さびしくないと言えば嘘になる。恋人どころか、私には好きな人さえいないのかと思うと、胸の真ん中にぽっかりと穴の開いた気持ち。同時に自分の気持ちに素直になれた清々しさと安堵が身体と独りぼっちの部屋を満たしていた。

 

と表現していた。

とても深くうなずいた。別に好きなわけじゃないし、とか、彼氏できないんじゃないし、とか意地を張ってるのではなく、あ〜なんか彼氏とか今は別にいいかなぁって感じるときって、一種の清々しさがある。ちゃんと自分の心の声を聞けている安堵感も。

私は最近ずっと、それらと共に生きている。

 

綿矢りさの小説は上記の2つしか読んでいないが、どちらも主人公が最後には他人と向き合うことを選択して終わるという点で共通している。

ヨシカは脳内のイチではなく現実のニを、みつ子は脳内のA=自分とばかり向き合うのをやめ、現実の多田さんと向き合うことを選んだ。

ちなみにニと多田さんは、どちらも主人公にとって「すごく好きというわけでもないが話していて落ち着く、素でいられる」という点でも共通している。

「きちんと現実と向き合いなさいよ」「結局ドキドキする人より落ち着く人だよ」というのが綿矢さんの中では大きなテーマなんだろうか。

 

 

 

「自分が根本的に人を必要としていないことがショックだったの。」

 

そう言って、人を必要としない自分と孤独が辛い自分に挟まれるみつ子は、それでも人といたいと思う自分を見つけることができた。

私はまだそこに至っていない。独りで行動する自分が自然体で、それでいいと受け入れてしまっている。孤独が辛いなんて思ったこともない。でも、この精神状態がずっと続くとも限らない。Aは「人間が必要とするのは、いつも自分以外の人間」だと言っていた。いつか、誰かを必要と感じる時がくるのかもしれない。今は一人で平気な強い自分のことが好きだけど、誰かを必要とする自分のことも受け入れてあげたいと思う。

 

じんわり心に沁みる、いい小説でした。

年内に絶対映画も見に行く。